キルト作りをグリーフケアに取り入れる
メキシコシティ
メキシコのアクティブなキルターを訪ねる旅その2
今回はキルト作りをグリーフケアに取り入れた活動をしているLili Jimenez Meza (リリ・ジメネズ・メザ)さんをご紹介。
撮影:Ben Ingoldsby 地図:吉田ゆか 取材:市川直美
キルト作りがセラピーの効果をもたらすことは英国やアメリカでは実証済みで、古くは戦争で負傷した兵士たちの精神療法に多くの医療施設で取り入れられてきた。
近年は介護施設でも広がっている。
メキシコの首都メキシコシティで、キルト作りをセラピーに取り入れている人がいると聞き、会いに行った。
三年前に「キルテアルテ」という名のキルトショップを開いたリリ・ジメネズさんである。
リリさんはキルト店を営みキルト指導をしているが、本業は終末医療の医師という肩書きを持つユニークな人物なのである。
長年、ポスピスでのグリーフケア(喪失で悲嘆にくれる人々をサポートすること)に関わってきたが、
きっかけは子供を亡くした母親のためにキルト作りをセラピーに取り入れたいと考えたことだった。
まず自らがキルトのクラスを受講し基本的な技術を習得すると、早速試みたのが、子供が着ていた服を使いパッチワークをするというプログラム。
見るだけで思い出がよみがえる服は愛しくて辛く、しかし捨てることができない大切なもの。
それをあえて三角や四角のピースに切ってしまい縫い合わせることが彼女が考えたセラピーの方法だった。
非情なことのようだがリリさんはこう考える。
「それを着た人がこの世から去り、残された服は多くの場合は着られることはありません。服を裁つ行為は決裂ではなくその次のステップへの一歩となり、組み合わせ縫い合わせることで新しい形が出来てきます。そしてそれは愛する人を抱きながら一歩先に進むプロセスであると信じているのです」。
実際、辛い作業には違いないが、乗り越えていくことで気持ちに効果を確実に与えるという。
リリさんが、病院でのセラピーでもショップでのキルト指導においても重要だと思っていることがある。
それは「ゆるく気楽なキルト作り」である。「人生には大きな問題がたくさんあると思います。
私たちはそれらを乗り越えながら生きているわけで、針目が揃わないことや上手に縫えないことはとてもちっぽけなことだと思うんです」。
彼女の店にキルトをやってみたい初心者が毎日大勢やってきて笑顔で帰っていく理由がわかるような気がした。大事なことは無理しないことなのだ。
縫って仕上げて、上手下手を批評するのではない、もっと尊いキルトの取り組み方があって、それを導いている人がメキシコシティで頑張っていることに感動を覚える。
info ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Quilte Arte
Prado Norte 406 Local 203,Plaza del Domo,
frente a Telmex, Lomas de Chapultepec, Mexico
※よみうりキルト時間7号(2017年発行)の掲載記事より