布への好奇心が詰まった店 「あんだんて」/京都

店頭に並ぶ生地。シックな色合いのウールやリネンは花岡さんの作品に欠かせない素材。

キルト作家、花岡瞳さんの店「キルトハウス あんだんて」。音楽用語で「歩くような速さで」という意味の名の通り、ゆっくりと歩み続け、昨年三十周年を迎えた。阪急京都線桂駅から十分ほど歩き、住宅街を抜けた通り沿いにある。コンクリート打ちっ放しのモダンな内装は当初から変わらない。シンプルな色使いとスタイリッシュなデザインが特徴の、花岡さんの作風にしっくり合っている。

花岡さんは生まれも育ちも京都。自宅の近所には世界遺産の東寺があり、子どもの頃から散歩の場所だった。もちろん毎月の弘法市にも足を運ぶ。古本や着物、陶器を見てまわるうち、布への好奇心が膨らんでいった。お気に入りを見つけては手元に集め、そのうち、素敵な着物を見つけるとスカートやバッグを作りたいと思うようになる。

「布は好きであれこれと集めていたけれど、縫いものは面倒。そこで洋裁を習いに行ったのですが、ミシンに馴染めなくて。せめて気楽に針を持ちたいと思っていた頃、パッチワークを知り、興味を持ちました。お気に入りの端切れがパターンになって、やがてタペストリーができて。ボタンつけもできなかったのに、手縫いの品が完成したから嬉しかったです」

好奇心のままに始めたパッチワークに夢中になった花岡さん。会社員として働きながらテクニックを磨き、作品制作を始めた。苦手と思っていた縫い物にどっぷりと浸かる日々が始まる。

花岡瞳さん(左)と清水良悦さん(右)。

そして数年後の一九八八年。もっと制作に没頭したいという気持ちから、キルト仲間の清水良悦さんと松本慧子さんの三人で「あんだんて」を開く。お互い、勤めていた会社を辞めての思い切った決断だった。

しかし、経営に関してまったくの素人だったから思うようにはいかず、暇な日が続いたと振り返る。

「とにかく三年は続けようと決めていました。悲壮感はなくて、たっぷりあった時間で自分らしい作品をどう表現するか、そればかりを考えていました」

「国際キルト博’98 in JAPAN」に展示された「森からのメッセージ」。

当時、メリハリあるアメリカンパッチワークが主流だったが、それに反して、シックな色の素材感のある作品を目指していた。そんな中、花岡さんは先染め布に出合う。ベージュやグレーの風合いある生地は感覚にフィットした。先染め布を中心に絹や麻、ウールなどを好奇心のままに組み合わせたら、持ち味が引き立って面白かった。そうして作られた作品は、雑誌に紹介されるなどして評判を呼び、同時に店も軌道に乗るようになる。特にバッグは、気が利いた形とシックな色使いがおしゃれだと人気となった。

30年ほど前にアメリカで購入したアンティークの生地見本は花岡さんの宝物。

現在、店内は黒やグレー、ネイビーといった静かな色に集中しているが、置かれている生地の素材は様々だ。幾何学柄を中心としたプリント、ごわっとした麻やさらりとした麻、模様が個性的な服飾用化繊など。特にウールは、毛足が長いもの、ざっくりと織られたもの、紳士物のスーツで使われる目の詰まったものなどが一年中揃う。どれも花岡さんの素材への好奇心とこだわりを反映した生地ばかりだ。使いやすく、暮らしに馴染みながらも、個性的でモダンな作風の鍵は、使う素材の種類の多さと、素材を熟知した生かし方にあるといっても過言ではないかもしれない。「縫いものは苦手だったはずなのに、ずっと続けてこれたのは、やっぱり布が好きだからかしら」と花岡さん。清水さんと共にゆっくりと歩んだ三十年間は、同時に布への好奇心に満ち溢れた年月だ。そしてこれからも、その好奇心とともに、素材を大切に生かした作品を見せてくれる。

愛用のお裁縫箱。使うものしか入れず、ザックリと収納しているのがおしゃれ。

− Profile −
花岡瞳さん
京都府京都市在住。1979年よりパッチワークを始める。モダンでシックな色使いと素材の風合いを生かした作風が人気。著書多数。

QUILT HOUSE あんだんて

〒615-81011 京都市西京区川島東代町28-1 辻ビル2F
電話・FAX 075-392-3223
営業時間 10時 〜 16時
日曜・祝日定休日
http://quilt-andante.com 

撮影:小野さゆり
イラスト:吉田ゆか

※よみうりキルト時間17号(2019年発行)の掲載記事より

 

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