【世界キルト紀行 1】カナダ、プリンスエドワード島

1883年に祖母が18歳で結婚のために縫ったクレイジーキルト。

キルター世代に大人気の「赤毛のアン」(著者ルーシー・モード・モンゴメリ)の物語の舞台は、カナダの東端に浮かぶ小さな島プリンスエドワード島。「世界中でいちばん美しいところ」と、主人公アン・シャーリーが憧れたこの島には四季折々の自然が織りなす美しい景色がある。「赤毛のアン」には、キルトが登場する場面が多くある。舞台となった19世紀末、カナダの多くの家庭でキルトが作られ使われてきたことが「赤毛のアン」の物語から想像できることがとても嬉しい。

そして今のプリンスエドワード島でも、キルトが盛んに作られている。主流はもちろん昔から伝わるトラディショナルキルト。今回はキルトに特別な想いを抱く5人にお話を聞いた。

撮影: Wayne Barrett  地図:吉田ゆか 取材:市川直美
取材協力:カナダ観光局 プリンスエドワード島観光局

「プリンスエドワード島ってどんなところ?」
アトランティック・カナダ4州のひとつ。ゆりかごのような形をしていることから、先住民ミックマック族の言葉で「波間に浮かぶ揺りかご」(アベグウェイト)と呼ばれていた。現在の人口は約14万人。特産はジャガイモ。「赤毛のアン」の著者モンゴメリは、スコットランドとイギリスからの移民の子孫として1874年に島で生まれる。

「赤毛のアン」の舞台、グリーンゲイブルズを再現した観光名所。

宝物は祖母のクレイジーキルト

ヘザー・マクドナルド(シャーロットタウン)

州都シャーロットタウンに住むヘザー・マクドナルドは、生まれも育ちも島の人。ヘザーは宝物のキルトを持っている。それは祖母が一八八三年、十八歳の時に嫁入り道具のひとつとして縫い上げた特別な品で、当時島で大流行したクレイジーキルトである。様々なドレスの端切れを組み合わせ刺繍で装飾して作られるこのクレイジーキルトは、普段使いのキルトより作るのに時間も費用もかかる特別なもの。ヘザーの祖母は期待に胸ふくらませて針を進めたに違いない。しかし悲しい出来事が起こる。 船乗りだった婚約者は事故に遭って帰らぬ人となったのだ。そして作りかけのクレイジーキルトがつらい過去の思いとともに残った。

その後キルトがどうなったかのストーリーはとても素敵である。ヘザーの祖母は淡々と針を進めとても美しいクレイジーキルトを完成させたのだ。そしてヘザーの祖父と結婚し、キルトを嫁入り道具として持参した。

子供のころヘザーは、祖母の家のベッドにこのキルトがかけられていたことを鮮明に覚えていると言う。「お泊まりのときには祖母と一緒にこのクレイジーキルトの下で眠りました。他にも祖母の家にはきれいなキルトがたくさんありました」。祖母が亡くなった後、クレイジーキルトは叔母が相続し従姉妹が受け継ぐことになっていた。しかしキルトの価値を理解するヘザーが持つべきと、家族会議で決まり、ここにやってきた。

百三十三歳になるクレイジーキルトが今、ヘザーの家にある。実際キルトは長生きである。作った人よりもずっとずっと長くこの世に残る。

改めてキルトはそれを作った人がいたことを後の時代に生きる人々に証明する役目をになうということを思う。

子供のころに作ったキルトと可愛がっていたクマのぬいぐるみを今も大切にしている。

13歳のときに作り始めた「サンボンネットスー」のキルトは未完成のまま。

生まれ育ったプリンスエドワード島を心から愛しているヘザー。

※よみうりキルト時間1号(2016年発行)の掲載記事より

 

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