リバティプリント好きの「手芸店」トランテアン/京都

「フランスのファッションブランド、キャシャレルのポスターでモデルたちが着ていたドレス、英国リバティ社製の伝統的な花柄プリントで仕立てられたそのドレスを見た瞬間、魅了されました。美しくて、可憐で」

リバティプリントとの出合いを語るのは、京都市郊外、上桂に店を構える玉村利恵子さん。大手服飾メーカーにてデザイナーとして勤め始めたばかりの四十年ほど前、オフィスに飾られていたそのポスターを、今でも鮮明に覚えていると話す。しかし、布を手に入れる方法もわからず、仕事に邁進する日々が続いた。自分の作品を作る余裕もなかったから、リバティプリントへの興味は胸の奥にしまっておくこととなる。

転機が訪れたのは数年後。同じ会社に勤めていたご主人との結婚をきっかけに、仕事に区切りをつけて退社した。そして自分の時間を手に入れた玉村さんは、ご主人の勧めで店を始めた。

「カフェでも雑貨屋でもよかったのですが、仕事で身につけた技術も生かせるし、何より、子どもの頃から大好きだった手芸に関わりたい気持ちが強くて、手芸店を開くことに決めました」

リバティプリントの端切れが貼ってあるショップカード。コレクターもいるほど。

当時、町にあったのは毛糸屋や生地屋というぐあいに、扱う商品を特化した店だった。でも、店を持つなら多様性を持った手芸店がいい。ワンピースに刺繍もしたいし、レース編みの飾りもつけたい、パッチワークもしたい、そんな自分を含めた作り手の願いを叶えるような店にしたい。そうして一九七九年にオープンしたのが「トランテアン」だ。フランス語で三十一、オープンした年のご主人の年齢を店の名前にした。

開店当初から強いこだわりを持って商品を選んだ。基本的には服飾で使えるコットン、そして輸入手編み毛糸を中心に、自分が使いたいものを探し回って並べた。そんな中、玉村さんはある生地屋でリバティプリントと再会する。コットンなのにシルクのようなタナローンの佇まい、繊細で優美な柄行き、どれをとっても魅力的に感じた。

人気のパッチワークバッグのキット。

「小売店で扱えないだろうと半ば諦めていましたが、思いがけず、店におくことができるようになりました。最初はわずかな柄のみでしたが、憧れていた布で服が作れるようになって嬉しかった」

そこからは徐々にリバティプリントを中心としたラインナップへ。国産、輸入柄を問わず、さまざまな柄を揃える関西随一の店となる。

現在、トランテアンにはクラシックと呼ばれる輸入定番柄、シーズンごとの輸入柄と国産柄などが千種以上並ぶ。

作品作りを支えるのはミシンの腕前がピカイチの元技術技師のご主人。
1946年製の国産ロックミシンは今も大活躍している。

「リバティプリントは、一八七五年に誕生したリバティ商会という東洋の絹や雑貨を輸入する会社が、東洋の絹織物に影響を受けて作りました。そのためか、シノワズリ(中国趣味)な色柄が多く、日本人の感性にも合うのではないでしょうか」と玉村さん。さらに注目してもらいたいのは、すべての柄に名前がついている点だという。人名や植物、場所の名前が多く使われていて、そこからイメージを膨らませると、さらに手作りが楽しくなりそうだ。

「輸入柄を多く揃えていますが、それは生地幅が一三五㎝と広いから。大柄で柄合わせをすることが多いホームソーイングに最適なのです」

トランテアンの看板はアイアン製。

毎シーズン発表される七十種ほどのプリントから、仕入れを決めるときがいちばん悩ましく、同時に幸せを感じる。近頃、小花柄よりもファッショナブルな柄やユニークな柄を選ぶことが多くなっているそうだ。

リバティプリントの世界観が味わえる京都の人気スポットである。

Trente et un トランテアン

〒615-8281  京都市西京区松尾木ノ曽町51-6
電話・FAX 075-392-8119
営業時間 10時 〜 18時
日曜、祝日定休日、夏期冬期不定休
https://shop.trenteetun.com/
https://www.instagram.com/trenteetun/

− Profile −
玉村利恵子さん
京都市在住。立体裁断の講師、アパレルデザイナーを経て、ご主人と二人、「トランテアン」のオーナーを務める。

撮影:小野さゆり
イラスト:吉田ゆか

※よみうりキルト時間17号(2019年発行)の掲載記事より

 

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