職業歯医者。この仕事には四十年間就いている。家族は夫に息子二人。子育てはとうに終わり、現在も現役の医師。キルトは十年ほど前から趣味で作ってきた。
プラハの町外れ。広い庭のあるお屋敷が続く地域。丹精込めてお世話をしている庭を大きな窓に見渡す部屋で、モニカ手作りのキッシュのランチ、そしてケーキをいただきながら話を聞いた。
初めてキルトを見たときに、こんなきれいなものがあるんだと思ったそうだ。ミシンが得意だったのですぐに作ってみた。国が社会主義下の時代に、チェコの主婦たちは家族の服を家庭で当然のように縫っていたが、医師だったモニカも同様で、それは義務というよりも楽しみな仕事でありゆえに裁縫の技術はかなり身についていた。しかしコツコツと時間をかけて仕上げる手縫いの時間が好きなので、次第にミシンと手縫いを混ぜながら作るスタイルで好きなように縫うようになった。彼女のもうひとつの趣味はキルトとは正反対の庭仕事。休みの日が晴れだとほぼ一日を庭で過ごすから、キルト作りは雨の日と夜のお楽しみということになる。天気も時間も関係なくすぐにちょっとの時間でも取りかかれるキルトは、気軽な気分転換でありリラックスには最適なので気に入っている。
モニカが近頃夢中で取り組んでいるのが、昔の布やアンティークのレースなどを生かして作るキルトである。それらは何と、すべてが自分や夫の家族の残した品々で、かつては宝物箱に大切にしまって時々広げては眺め、またしまってを繰り返していたものだ。「ひいひいおばあさんの祖母のイニシャルAFの入ったピローケース、祖母がレース編みの見本を自分で作った見本帳、祖母のレースの手袋、叔母の編んだドイリー、極細糸のレース編みのテーブルクロスは曽祖母…。作った人が自分の家族なので、どれを見ても愛おしくて懐かしく特別な品なのですが、このまましまっておいても息子二人は興味がなく、私が何かに生かせたらとずっと考えていました」。
古いものは二百五十年も経っており、そんな貴重な品々を今まで分散させずに守ってきたモニカとその家族に頭が下がる。そしてモニカが選んだ方法がキルトに生かすこと。記憶に残る思い出と一緒に縫い込めば、箱の中にしまっておくよりももっと良い形で残しておけると考えたからだ。そうして生まれたのが「祖母たち」と命名したピンクのキルト(上)。時代をまたがって家族に愛された美しいレースを甘いピンクの生地に縫い付け、祖母たちひとりひとりに思いを込めた。もう一枚の白いキルト(下)には、繊細なレースやモチーフを全面に配した。
違う時代を生きた家族は時間という線の上では決して会うことは叶わない。しかしそれぞれの思い出の品々をキルトの上に縫い合わせれば、そこでは家族が出会い手を繋いでひとつになれる。何て素敵な発想だろう。モニカのキルトからそんなことに気づき、その奇跡に胸が熱くなる。
「このシリーズに取り組んでいるととても幸せな気持ちになります。焦らずにアイディアが運ばれてきてふと浮かんでくるのを待っているんです」。もちろんこのキルトは手縫い。丁寧に針を進める時間は、美しい手仕事を残してくれた祖母たちへのオマージュでもある。