【from 編集長】キルトダイアリー誕生までのちょっとしたおはなし

一度目はやんごとなき理由で突然に、二度目は自分の意思とは関係なく終了を告げられ数ヶ月後に。編集長を勤めていたキルト雑誌二つのあっけないエンドを経験しました。コロナ蔓延の影響で二度目の雑誌と連動開催していたフェスティバルも当然ながらなくなりました。

そして社会が先の見えない不安にジワジワと襲われていた2020年には、日本のキルト繁栄の象徴だった東京ドームのフェスティバルも幕を下ろすことが決まりました。

雑誌の終了は販売元の会社の出した結論なので編集を請け負っている立場では従うしかなく、仕方のないこと。しかしあらゆることが停滞する情勢ではあってもキルト愛好家が激減しているような気配は感じられず、また雑誌を楽しみにしてくれている読者が目の前にたくさん見えていました。キルト雑誌のエンドは現実自分としても辛すぎますが、愛読していた雑誌が突然に届かなくなる読者も同様に悲しい思いをするのではと悶々とした気持ちが重くのしかかってきました。

ご存知のように日本には二つの出版社が発行する不動の地位の定期キルト雑誌がふたつもあります。私のやっている雑誌が終わったところで最初はザワつくかもしれませんが、きっとそのうち忘れられるだろうし、流れの中では大きな影響はないだろうと、諦めの気持ちも少しずつ湧いてきました。ただ本心を言えば、編集長として育ててきた雑誌を止めるのは断腸の思いでした。けれども自分はフリーで編集を受けるだけの立場であり、雑誌を引き受けてやれるほどのノウハウも資金力も人力もないので流れるままに委ね、エンドを待つしか方法はなかったのです。

そんな時、雑誌を続けられる方法をあらゆる角度から検証し、マネージメントを申し出てくれたのが、アークフィリアでした。webで実績を積んできたこの会社は、全国規模のハンドメイドマルシェを開催運営し成功をおさめてきました。自分との接点は2018年と2019年のパシフィコ横浜のキルト時間フェスティバルで、アークフィリアは立ち上げから運営を担い、私は展示企画を担当していたのです。お仕事をご一緒すると、それまで関わってきたキルトの世界とは全く違う構築やらアプローチを淡々と進める仕事ぶりにただ感心。社長の堤田さんの、キルトを文化として捉えてくれている姿勢に大きな信頼を寄せていました。

キルト時間フェスティバル2018会場の様子

雑誌の中身も変えず、編集スタッフもそのままで、スムーズに読者の混乱を最小限に押さえ、移行してもらえるには…。編集以外で、雑誌を出していくために最重要事項である経営面、販売方法や告知などの運営全般はアークフィリアが構築。キルト時間最終号から間を空けずに出すため時間もありませんでしたが見事クリアしてくれました。一方編集サイドでは創刊までの時間があまりないためできる限りの知恵を絞り、新雑誌の形態を費用との折り合いで決め、新しいビジュアルスタンスも決定し撮影、入稿に向かって進んでいきました。そしてついにwebとチラシでの告知が始まりました。初めてのwebでの雑誌告知にはドキドキしました。

2021年5月10日。出版社ではなく、書店販売をせず、年間購読システムで。これまでは全く違う新しい形でのキルト雑誌が世に出ていきました。「皆さんのお手元にゆうメールで届く、新しい形のキルト雑誌キルトダイアリー」そう文字で書いてしまうとすごく軽いのですが、誕生の裏側にはさまざまな種々選択や積み上げがあり、今回のコラムでそんなことをちょっとだけお話しさせていただきました。

新しい事を始めるにはすごいエネルギーが必要で、沢山の方々のアイディアとお力とサポートなくしては実現不可能です。ただただ感謝しかありません。そして応援してくれる読者の皆さんがいてくれるからやっていけます、続けていけるのです。実際、どこまで辿り着けるか到着地点は見えませんが、こうやって敷いていただいた道を前に向かって進むしかありません。いろんなことは後ろに置いてきてしまいました。私は日々、広く深くキルトの世界への学びをつづけております。良いキルトの媒体を作るために。

市川直美 キルトダイアリー編集長

 

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