東京・目白にある「布と玩具 LUNCO」の店主・永田欄子さんが集約させた日本のむかし布の世界をちょっと覗き見。
オモシロ柄の世界を案内していただきました。
今回はお伽話にまつわる柄のお話です。
先人たちに思いを馳せながら、生み出された昔の布を手に取ると、その時代に生きた人たちの生活、思想、息づかいをつぶさに感じ取ることができます。これらの布たちが生まれた明治〜大正〜昭和の初めにかけては、溢れかえる情報がすごいスピードで流れている現代とは違い、人々はもっとシンプルに暮らし、目の前のものと堅実に向き合っていた時代だったはずです。だからこそ人々の想像力はもっと活発でのびやかだったのではないかと思います。
無限に広がる想像力はそのままとどまることを知らず、デザインの中にも入り込んでいます。テキスタイルデザインもしかり、現代よりはるかに自由闊達でおおらか、何でもありの世界が広がっていました。皆さんの中には昔の布や着物の柄というと、古典柄や吉祥文様、四季折々の植物を描いた柄などを想像される方も多いのではないでしょうか。もちろんそれらもとても想像力豊かにデザインされてきていますが、それ以外にもたくさんの遊び心やユーモアを携えたデザインが多く存在します。私はそれらを「オモシロ柄」と位置づけてきました。
デザインは、文化や流行を反映したものや、その時々の世相が影響したもの、そして作り手の限りない想像力を投影したものなど実にさまざま。ちょっと不思議でユニークな柄だったり、洒脱で小気味良い柄だったり、幻想的でノスタルジックな柄だったりと、見るほどに奥深く、こちら側の想像力も掻き立てられるのがオモシロ柄の愉しいところです。しかもそれらはテキスタイルなので、もちろん着物などに仕立てられる、紛れもなくファッションの一端だというのがさらに興味深いところです。
近代日本のテキスタイルデザインの変遷をたどってみましょう。文明開化の幕が開けた江戸の終わりから明治にかけて、海外から多くの文化が日本に入ってきます。デザインにも色濃くそれらは反映され、多岐に渡り海外からの影響を受けたと思われるデザインが誕生します。ファッションは常に最先端の文化の影響を受けるものです。その頃、文化の最先端はヨーロッパだったはずですから、ヨーロッパのありとあらゆることへの憧れや羨望が想像力によって展開し、もともとの緻密な日本の染め織りの技術がデザインセンスと融合し、海外文化の影響を受けた日本独自のデザインが生まれます。第二次世界大戦以前(昭和初期頃)までの日本は、戦勝国だったことも影響してか、デザインに限らず国内の雰囲気も憂いや焦燥感がなく、すべてにおおらかであったのかもしれません。デザイン自体にも、情緒や情感があるものが多く見受けられます。
今回ご紹介するお伽話の柄も、その頃に生まれたものです。お伽話の柄は子供用の着物地に多く見られます。今回は男の子用のものが中心になりましたが、お伽話に登場する三太郎(桃太郎、金太郎、浦島太郎)のような剛健な主人公に、子供の健やかな成長を願う気持ちを重ね合わせたのでしょう。現在では避けて描かれることもある、残酷で不条理な部分も多い本来のお伽話。昔の布のデザインの中では、そんな部分は想像力を働かせ、シニカルに創作されたり、ユーモアたっぷりに誇張されたりと、楽しげに描かれています。また話に登場する動物たちが人間味溢れる表情で、実に勇ましく、微笑ましく描かれているのも面白いところです。こんな着物を着て成長した子供は、きっと素敵な男性になるに違いありません。
Information
布と玩具 LUNCO
アンティーク着物・帯・羽織・子供着物ほか、縮緬・錦紗・刺繍裂・緞子・更紗・藍木綿・銘仙・オモシロ柄・無地縮緬・無地木綿など古布全般を取り揃えています。永田欄子さんがセレクトする布、着物、帯、玩具などが揃うお店。ブログにて新着情報などをご紹介しています。
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※よみうりキルト時間22号(2020年発行)の掲載記事より