母から娘へ、祖母から孫へ お寺を彩る「つり雛」
京都・法住寺

京都市東山七条、三十三間堂隣の法住寺は、後白河法皇ゆかりの天台宗の寺院。桃の節句の頃には、境内や山門を白梅や紅梅、しだれ梅が彩り、春の訪れを感じることができる名所だ。ここでは毎年、「つり雛展」が開催されている。身代不動明王が安置される本堂を通り、奥の書院を訪ねると、そこは春らんまん。美しい七段の雛壇飾りの周りに、色とりどりの吊るし雛や手毬が飾られ、たくさんの貝雛や立ち雛が出迎えてくれる。

ここに飾られている品々は、お寺に伝わる雛壇飾り以外の大半がお手製だ。作られたのはご住職の祖母様、静岡県伊豆在住の渡辺和子さん。六十歳を過ぎてから人形作りを習い始め、九十歳を過ぎた現在も手作りに励む日々を送っているそうだ。

和子さんが吊るし飾りを作り始めたのは二十年前。お住いの伊豆で催された吊るし雛の復興イベントで出合い、美しさと奥深さに惹かれたのがきっかけだ。以来、娘たちや孫の無病息災のために手を休めることなく作り続け、ついには書院を埋め尽くすほどの数となった。そこで先代の住職が「参拝に来られた方々にも喜んでいただけたら」と十年前に始めたのがこの展示会だ。

「つり雛展」では、関西ではまだ珍しい吊るし飾りが見られるだけではなく、残寒を忘れるほどあたたかい気持ちになれる。それは、ひとつひとつ違う表情、姿をした雛飾りから、和子さんの娘や孫への思いが伝わってくるから。そして何より、九十歳を過ぎた今でも人形を作り続ける和子さんの姿に心打たれるからに違いない。

三間の書院に所狭しと飾られた祖母様お手製の雛人形。
京都では古来から伝わる風習を受け継ぎ、向かって右がお内裏様、左がお雛様の順に並べられる。

法住寺つり雛展

毎年、お雛祭り時期に合わせて開催されている。隣接する三十三間堂では、3月3日に「春桃祭(もものほうえ)」が行われる。ぜひ一緒に訪ねたい、春を感じる京都の伝統行事だ。

※新型コロナウイルス感染症に関わる状況の変化により、「つり雛展」のを中止する場合もあります。開催の有無は、下記のホームページでご確認ください。

後白河法皇御所聖跡 天台宗 法住寺
〒605-0941 京都府京都市東山区三十三間堂廻り655
☎ 075-561-4137
https://hojyuji.jp

撮影:小野さゆり

※よみうりキルト時間16号(2019年発行)の掲載記事より

 

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