【世界キルト紀行8】アメリカ・ケンタッキー州パドューカ

「世界に影響を与えた日本のキルト作家たち」

JAPANESE QUILT ARTISTS Who Have Influenced the World

アメリカ・ケンタッキー州パドューカ ナショナル・キルト・ミュージアム

アメリカ、ケンタッキー州パドューカには、国立キルト美術館があります。
今から4年前の2018年4月、「世界に影響を与えた日本のキルト作家たち」と題した日本キルトの展示がありました。

コロナ前には日本のキルトを盛んに世界に発信していましたが、コロナ禍でその機会が全くなくなりました。
また再開したいとの願いを込めて、その様子を振り返ります。

撮影:Glenn Hal 取材:市川直美

美術館内、日本キルト展示の入り口。

アメリカにはキルト専門の美術館がある。
規模は様々だが、総じて最善の状態でキルトを展示するための環境が整っている。
館内の壁面や天井の高さ、色や照明、そして湿度もキルトをよく展示するために設定されており、そんな環境で展示されるキルトはひときわよく見える。
大きな会場で行われるキルトフェスティバルが、キルトの数と種類を楽しむものであるとすれば、キルト美術館は一枚一枚をじっくり鑑賞できる空間と時間を味わえるところが魅力と言えそうだ。

アメリカのキルト専門美術館の中でもベスト3に数えられる国立キルト美術館は、アメリカン・キルターズ・ソサエティ(AQS)主催の国際的なキルトフェスティバルが開催されているケンタッキー州パドューカにある。
「キルトウィーク・スプリング・パドューカ」「キルトウィーク・オータム・パドューカ」と呼ばれるフェスティバルの開催される4月と9月には、全米そして世界各地からキルターがこの街にやってきて、必ずと言って良いほどキルト美術館を訪問して、キルトの魅力に浸るひとときを過ごす。

この国立キルト美術館で、2018年の4月上旬から3カ月間、日本のキルト34作品が特別展示された。
「世界に影響を与えた日本のキルト作家たち」というテーマの下、日本を代表する17名の作家がそれぞれ2作品ずつを出展した。
そしてこの展示の企画監修を依頼されたのが小誌編集部である。

この話をいただいたときにまず考えたことがある。
それは、わかりやすい日本的な作品だけでなく、今、日本で活躍している作家たちの様々なスタイルの作品を一堂にお見せすることで、見学者の抱いている「日本キルト」のお決まりのイメージを良い意味で裏切りたいと思った。
実際に日本には様々な作風の優れた作家が大勢いて、着々と世界で評価を高めてきた。
作品の幅広い多様性は私たちの誇りでもあるのだ。
そして実力ある作家17名にお願いをしたところ、クラシックな和キルトからデザイン性の高いハワイアンキルト、アートキルトまでが集まった。

鷲沢玲子さんの作品は近寄って見て細かさがわかる。

小関鈴子さんのキルトはアメリカと日本の伝統がコラボレーション。l

ここで日本のキルトの歴史をちょっと振り返ってみよう。
ご存知のように日本では1980年ごろからアメリカから入ってきた新しい手芸としてキルトが注目を集め、女性たちはそれを模倣して作り始めた。
先駆者たちはカリキュラムを作成し、キルト教室が各地にできていく。そして日本全国に誕生したキルト教室から多くの素晴らしいキルトが生まれるようになった。
アメリカンキルトとも違う緻密な構成と完璧な縫製の作品である。
15年ほど前から世界のキルトコンテストで日本人が多く入選入賞を果たすようになり、いつしか「ジャパンキルト」というジャンルが確立され、リスペクトされるようになる。
そこで生まれた面白い現象が日本人の作品から明らかに影響を受けたと思われるキルトが他の国で作られるようになったことだ。

藍の深さを伝える黒羽志寿子さんのキルト。

注目を集めていた河田明子さんのアップリケ。

片桐好子さんの黒と赤の強烈な色使い。

そしてテーマは「世界に影響を与えた日本のキルト作家たち」。
4月上旬、展示がスタートしてすぐに配信された美術館の動画には、こちらの思惑通りに日本の作家のキルトがランダムに展示されていた。
意外だったのは作家ごとに2枚ずつ並べるのではなく、作品の色合いと雰囲気で隣の作品が決められていたことで新鮮だった。
日本キルトの豊かさバラエティをぜひアメリカの人や世界の人々に見ていただきたいと願ったこの展示、美術館を訪れた人々に良い影響を与えたと確信している。

キルト時間14号(2018年秋)掲載記事

 

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